恐怖のホスピタル 押し入ってくる痛み

寝台がまっすぐになってから、背後で医師の指示がきこえる。

消毒に使う薬品と道具、キョクマというのは恐らく局所麻酔のことだろう。

注射針や糸の太さ、メスの種類などを医師が連呼する。

まあ、前回お尻を切開した時と似ている。

違うのは医師が〇〇と指示したらカチャカチャと金属の台に〇〇を置いた音がしたあと、再び医師が

違う、〇〇だ

とか

これじゃなくて

とか修正が入る点だ。

猛烈に不安になる。頭の中で何度も

ナースを変えてくれ、いや丁寧語でナースを変えて下さいの方がいいか

などと練習をしていた。

そうこうしている内にどうやら準備が整った様子。

キョクマ(局所麻酔)だ。

痛い。麻酔が必要なのか疑問に思うほどに痛い。

冷静に考えれば、麻酔後は痛くないはずなのだから、麻酔が一番痛くて正解ではあるが、注射をされているときは冷静ではないから、そうは思えない。

針が入ってくる痛さもあるが、麻酔液を注入するためにピストンを押すときに、おそらく注射全体が少し押し込まれ、常に針が体内へグッグッと入ってくる。

これがもう痛くて痛くてたまらない。

泣きそうになりながら、脳裏には関羽の姿と、このブログの入力画面を交替交替で浮かべていた。

念のため、関羽は肘に毒矢を受け、肘の骨を麻酔なしに削ったということになっている。医師(演義では華佗)が肘の骨(もちろん肉も一緒に)削っているあいだ痛がる様子もなく客と碁に興じていたという。我慢強いか神経が切れているのかわからないが、手術中に碁をする関羽関羽だし、その相手をする客も客だ。相手は医師ではない。

麻酔の注射をされているあいだ、関羽が浮かんだのはこういう理由だ。ブログの画面は、とにかくブログに書こうという思いだ。

 

しかし、結果的に関羽の登場は早かった。このあと真の恐怖が始まるのだ。

それに比べれば麻酔なんぞは(手術の手順的にも)前座に過ぎなかった。

 

ちなみに華佗は伝説上、中国で初めて麻酔を使った医師ということになっている。関羽に麻酔を使わなかったのは、肘の骨に麻酔するには(当時は注射がないので)結局麻酔なしに骨がみえるほどに肉を削らなければいけないためとか何とか。