王照圓も祝英台にもまだ会えない

疲れた。こんな時は模糊集を読もう。

 

 今日、金を貸附けて利子を取り、期限を過ぎても支払わぬと、やいのやいのとしつこく催促し、はては家に押し掛けて来て大声あげての膝詰談判もやりかねぬ。
 偶々道敎の経典を読んでいたところ、その中に、「牽牛が織女を娶つた際、結納の金二萬銭を借りて、長いこと還さなかつたので、とうとう營室星のあたりまで追放された。」という記事があつたので、思わず吹き出し、天上界にもこうした風習はあるのだということを始めて知つた。してみれば人間界にそれがあるのに何の不思議もないわけである。ことに可笑しいのは、舅と壻とが金銭上の問題から互いに白眼視する仲となつてしまうことであるが、それとてこうせち辛い世の中であつてみれば、格別咎めるにも当るまい。(香祖筆記卷七参照)
 それで思い出すのは『世説新語』に載つている話である。王戎の娘が裴頠のところに嫁入りした際、王戎から銭数萬を借りた。さてその後、彼女が里歸りすると、お父さん一向によい顏を見せぬ。そこであわてて金を還すと、急ににこにこしたというのである。この話は前の話とよく似てゐる。ただ幸にして裴郎の家は裕福であつた為、舅御から追いたてを食わずに済んだのである。さもなかつたら恐らく牽牛織女と同樣に、天の河の両岸に阻てられる憂目に遭つたことだろう。

  模糊集より

 

一部、かなを新かなに変えた。原文にあたる気力もないが、(おそらくは)ご先祖様の文集をきちんと読んでみるか。