タイピスト

フランス語の原題は「Populaire」。作中後半に主人公が使用するタイプライターの機種名。本当にそういう名前の機種があったかはわからない。

 

良作。ジャンルにこだわるならば、ラブコメ、スポ根、コンプレックス、友情、女性の生き方、あたりを好きに配合すればよい。

ストーリーを書くのも芸がないが、

フランスの田舎で意にそわぬ相手と結婚させられそうになった娘が、都会で秘書として働く。

ところが雇い主がタイピストの大会にだして、雇い主の親友夫妻と雇い主?の応援で勝ち進んでいく。雇い主に?をつけたのは、、、あれは応援なのかな、という疑問が残るため。

ついにアメリカ、ニューヨークの世界大会に出場し世界チャンピオンとなる。

当然のごとく、雇い主の愛(と就職先)も手に入れる。

 

この作品は細かい(或いは逆に大きな)点に問題というか、疑問が残る。

しかし、そんなことをチャラにするくらいに素晴らしく面白かった。

また、細かい点でこう、なんというか、オタク心を刺激することが多かったことも素晴らしい。

 

はじめは問題やら疑問点。

まず、かなり重要なことだが、主人公がどうしてタイピストの大会に出場することになったのか、実はわからない。作中(DVD版の字幕)では

 

 主人公が秘書をクビ(試用期間で雇い止め)になりそうになる。事務所内で雇い主が「小さなことをしょうちすれば話は別だ」
 主人公「何でも」
 雇い主「実を言うと仕事とは関係ない。だが君は幸せになる。僕もだ」
 場面変わって主人公が事務所を怒って出ていきながらまとめていた髪を下ろす。雇い主が追いかけてきて
 雇い主「誤解だ」
 主人公「簡単にモノになる女だと思わないで!」
 雇い主「バカな 僕が君を口説くと思うな」
 主人公「それで色男のつもり?何の魅力も感じない」
 雇い主「お互い様」
 主人公「よかった」
 雇い主、ポケットから黄色いチラシをだしながら「君に求めてるのはこれだ」
 チラシは”タイプライター早打ち大会”
 主人公「仕事を続ける条件はこれ?大会に参加?」
 雇い主「参加じゃない 勝つんだ」
 その後、恐らくは別の日に雇い主が親友とテニスをして主人公(と大会)のことを話す場面が入り、次はもう大会の場面だ。  

 

わからない。なぜ主人公は自身を「簡単にモノになるなんて思うな」と勘違いしたのか。

なぜ雇い主はタイプライターの大会にだそうとしたのか。主人公のタイプが早いことはそれまでにわかっていたが、秘書としては”無能”だし、おそらくまだ主人公に恋してはいなかったはずだし。無意識の話をもちだせば別だろうが。

この物語の根幹の動機が不明なのは大問題であり、同時に些細なことである。

漫画「総理大臣 織田信長」と同じだ。

 

また、ベッドシーンの問題がある。

ベッドシーンは雇い主と主人公がフランス全国大会の前夜についに結ばれる、というもの。寝ること自体はいい。ある意味でストーリー上自然であるし、必要だろう。しかしがっつりベッドシーンを映すことでその場面だけが生々しく重苦しくなってしまった。そのため他の場面と明らかに異質になってしまい、俗にいう”浮いている”状態となってしまった。

こここそ、上記の大会に出る動機とおなじように「寝たんだな」と示唆させるだけで良かったのではないかと思う。

 

また、時代背景(1958から1959年)的にそうしているのか、世界大会のときの韓国人が、ハングル文字でタイピングしている以外は、完全に中国人であった。

演出でなければあまりに考証がお粗末だろう。

 

他にも細かい点はあるが、これくらいでいいだろう。

次にオタク心をくすぐる素敵なことだ♪

 

まず最初に主人公が1本指打法で早いなんて、お前はビル・ゲイツかと(笑)

残念ながら途中で、五本の指をホームポジションにおき、タッチタイピング(ブラインドタッチ)に切り替えてしまうが。

そして、世界大会でフランス語、英語以外の言葉が(少しだが)聞ける。なにか言語を勉強したくなる。久しぶりにglücklichなんて単語聞いた♪

タイプライターについて、AZERTY配列のキーボードがたっぷりみれた。さすがフランス語♪

そして、IBMゴルフボール タイプライターの映像。

いや、そもそもタイプライターを久しぶりにみた。あのバスケット状の印字アームがカチャカチャ動く様。印字部分が右に近づくと、改行をうながすために、鳴る”チーン”という音。すべてが懐かしく心地よい。

いや、もちろん今タイプライターで仕事なんかできないが、しかしノスタルジーを誘う。

主人公が世界大会で使うタイプライターは、フランス全国大会に勝ってからスポンサーについたジャピー社の”Populaire”。しかし、最後の最後では父から贈られた”Triumph”を使う。これは”Populaire”が「大衆」、”Triumph”は「勝利」を意味する。

ゴルフボールタイプライターは雇い主と雇い主の親友がICCL社に売り込んだアイデア(印字部分がゴルフボール状になっている)を製品化したものとして描かれているが、実際には上記の通り、1961年にIBMのセレクトリックとして商品化された。

物語の時代背景(1958から1959年)的にもぴったりだ!!

 

最後にオタク心を刺激するかどうかわからないが、

コーチと選手のスポ根ものとして王道の設定。
コーチに多少の反発心を抱きながらも、指導に従い上達する選手。そしてコーチに対する恋心が芽生えていく。
コーチの方は熱血を通り越して、いじめのような指導をする。上達していく選手に対し、もっと高みに昇ってほしい気持ちと、同時に芽生えた恋心を打ち消すために指導は益々厳しくなる。さらにコーチは(意識しているか無意識かはともかく)自身にコンプレックスを抱えており、それを選手にぶつけていく。
そして選手は優勝し、コーチも自身のコンプレックスを解消し、相思相愛で迎える大団円。

もう「トップをねらえ!」のチームにアニメ化してほしい(笑)

 

レンタルDVD版で悪いところはセル商品の情報が30分入っていることくらい。

観てよかった。DVD買おうかしらむ(笑)